書評 須々田美和
5 Books Selected by Miwa Susuda
Text:Miwa Susuda(SESSION PRESS / DASHWOOD BOOKS)
Organise:twelvebooks、銀座 蔦屋書店
テキスト:須々田 美和(SESSION PRESS / DASHWOOD BOOKS)
企画: twelvebooks、銀座 蔦屋書店
香港出身のフォトグラファー、ウィン・シャ(Wing Shya / 夏永康)の作品集『SOLACE 撫慰』(SESSION PRESS, 2024)の刊行を記念し、銀座 蔦屋書店にて2024年 9月6日(金)より30日(月)までフェアを開催。そのスペースでは、版元主宰である須々田美和による推薦写真集5冊を新刊や関連書籍とあわせて展開いたしました。ご本人のコメントとともに、当ページでもそのセレクションをご紹介いたします。
1. HARDTACK
artist|ラヒム・フォーチュン(Rahim Fortune)
spec|hardcover
page|144 pages
size|238 x 287 mm
publisher|LOOSE JOINTS
year|2024
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COMMENT:
生まれ育ったテキサスを舞台に、社会派ドキュメンタリー作家として活躍する新鋭作家、ラヒム・フォーチュンの2作目となる写真集。第1作目が、自身の家族を中心に自伝的な内容であったが、本作は、ブラック・アメリカンのコミュニティー全体へ視野を広げた。タイトルの『Hardtack』は19世紀アメリカ南北戦争後にアフリカ系アメリカ人のみで結成された部隊「バッファロー・ソルジャー」が任務の際に食料として持参した「乾パン」を指す。本部隊は、米西戦争など多くの戦地へ赴き勇敢に戦闘しアメリカの歴史に貢献したことで知られているが、その時代とさまざまな価値観の再検証が促される現代の状況を照らし合わし本書のタイトルとした。廃墟となった教会やカーボーイのポートレイト、伝統的なダンスを踊る子どもや、ホーム・カミングのパーティーで自信に溢れた笑みの若者の姿などブラック・アメリカンの文化を伝える写真が、主に右ページ中心に余白の縁を入れてレイアウトされ、一点づつ時間をかけて堪能できる。過去の厳しい歴史から静かに流れる日常の時間と未来への希望を込めた一冊。
2. WINOGRAND COLOR
artist|ゲイリー・ウィノグランド(Garry Winogrand)
spec|hardcover
page|150 pages
size|305 x 305 mm
publisher|TWIN PALMS PUBLISHERS
year|2024
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COMMENT:
ニューヨーク生粋の写真家ゲイリー・ウィノグランド(1928-1948)は、60年代前半からストリート・スナップと呼ばれる街頭での撮影を開始し、その後数十年に渡ってアメリカ写真界を牽引した、20世紀を代表する写真家である。ウィノグランド以前の作家が「正しい構図」や「良き意匠」を重点に写真を撮影したのに対し、ストリート・スナップに瞬間的に表れる、人間と人間、人間と動物、群衆とその社会的背景の「抽象的な間合い」に焦点を置き寓意的に捉えたウィノグランドの作品は、新しい写真表現を示唆した。ただ、生前はたった4冊の写真集(『The Animals』(1969年)、『Women Are Beautiful』(1975年)、『Public Relations』(1977年)、『Stock Photographs: The Fort Worth Fat Stock Show and Rodeo』(1980年)しか出版されなかったため、本書発売はコレクターの間で熱い期待が寄せられた。本書を紐解くとマンハッタンの騒々しい街頭や海水浴客で賑わうコニーアイランドを、意の向くままに徘徊し好奇心旺盛な子どものような純粋さでシャッターを切る作家の様子が伝わり、見るものに明るい気持ちを与えてくれる。ストリートフォトの玉珠の一冊。
3. TOKYO STYLE
artist|都築響一(Kyoichi Tsuzuki)
spec|hardcover
page|388 pages
size|250 x 250 mm
publisher|APARTAMENTO
year|2024
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COMMENT:
30年以上前に初版が刊行されてから、海外でカルト的人気を誇る『TOKYO STYLE』が今年の夏にスペインのインテリア専門の出版社から再び出版されるというニュースは、海内のコレクターの間で大きな話題を呼んだ。海外の人がイメージする日本を払拭する内容が、本書の人気を紐解く鍵であることが、リアル感満載のインパクトある写真から窺える。近年アメリカで話題の「こんまりメソッド」や、茶道から知られる「侘び寂び」、安藤忠雄の建築に代表されるようなシンプルで洗練されたイメージが通常、日本を連想させる「良き正しく美しい」型にはまった印象の一方で、本書は潔くそれを覆し、ありのままの普通の人々の暮らしを紹介する。それは、周りに気を使い自我をもたず、楚々として、控えめで、消費社会とは縁のない国民性ではなく、実は、購買力と好奇心旺盛で、それぞれに個性を活かし、明るく生活を楽しんでいる生の活力に満ちた日本人の姿を示している。不朽の名作の原点が、同調や惰性ではなく、革新と挑戦であることを再確認できる一冊。
4. THIS TRAIN
artist|ジャスティン・カーランド(Justine Kurland)
spec|hardcover
page|102 pages
size|253 x 183 mm
limited edition of 1,000 copies
publisher|MACK
year|2024
*including a handmade print
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COMMENT:
2005年から2010年の5年間、幼い息子とアメリカ大陸横断をした際に撮影された本書は、旅の途中で遭遇したアメリカの鉄道と旅に同行した息子のカスパーを大自然を背景に撮影したポートレイトが含まれる。カーランドは実はこれまで同じ題材の写真集を3冊制作している。前作の『Highway Kind』(2016年)『Spirit West』(2014年)『This Train is Bound for Glory』(2009年)が、それぞれに違うタイトルがつけられているように、同時期のロードトリップの作品であっても編集を変え新たな思いを込めて制作されている。本作において主眼をおいたのは、子供と過ごした母親としてのパーソナルな思い出としての記憶と、人新世(アントロポセン)を語る上で欠かすことができない「鉄道」の誕生と、「鉄道」が象徴する暗いアメリカの歴史(中国からの移民者が19世紀において鉄道の設立のため強制された不当な扱いや、差別、労働条件)について作家として検証することである。横長の装丁で厚紙が使用された表紙から一見、個人的な記録を収めた家族のアルバムのように見受けられるが、前作の『SCUMB MANIFESTO』でフェミニズであることを主眼とした作品と同様に、社会的な問題に鋭い視座を向けた1冊と言える。
5. THE LAST SAFE ABORTION
artist|カルメン・ワイナン(Carmen Winant)
spec|softcover
page|172 pages
size|305 x 220 mm
publisher|SPBH EDITIONS
year|2024
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COMMENT:
アメリカを代表するフェミニストの若手現代アーティストの一人としてMoMAやホイットニー美術館などで活発に展示活動をるウィナントの最新作。第1作目の『My Brith』で妊娠を主題にしたが、本作で「中絶」を取り上げ今年のアメリカ大統領選の争点となるトピックに挑んだ。実は、アメリカ全土で女性が中絶できる権利を持てたのは1973年から2022年のたった49年の間で今では州ごとの法律によって中絶は禁止される事態に陥ったことと、中絶反対運動において、いかに「中絶行為」が惨たらしく、倫理観に欠け残虐で不道徳であるかを説くために恣意的にビジュアルを使いデモが行われていることに対するアンチテーゼとして本書は制作された。ミネソタ、アイオワ、ネブラスカや作家の自宅のあるオハイオ州の公共機関の資料や自身が撮影した写真を含め、実は「中絶」という現場が、日常的に平和で安全で人道的であることを提示し、ビジュアルの持つ力を再認識することを促す一作。
SOLACE 撫慰
作家|ウィン・シャ(Wing Shya / 夏永康)
仕様|ソフトカバー
ページ|184ページ
サイズ|210 x 297 mm
出版社|SESSION PRESS
発行年|2024年
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POP-UP & BOOK SIGNING
「SOLACE 撫慰」Wing Shya 刊行記念POP-UP
「Session Press & Dashwood Books in 銀座 蔦屋書店」
会期|2024年9月6日(金)- 9月30日(月)
時間|営業時間に準ずる(最終日は17:00まで)
場所|銀座 蔦屋書店 BOOK EVENT SPACE(アートブックフロア内)
詳細
「SOLACE 撫慰」Wing Shya 刊行記念サイン会
日程|2024年9月6日(金)
時間|19:00 - 20:30
場所|銀座 蔦屋書店 BOOK EVENT SPACE(アートブックフロア内)
ゲスト|ウィン・シャ(Wing Shya)
詳細
須々田美和(Miwa Susuda)
2006年よりDashwood Booksのマネージャー、Session Pressのディレクターを務める。2021年より、ニューヨークのPenumbra Foundationでワークショップの講師、Parsons School of Designの写真学部のポートフォリオレビューのアドバイザー、2022年度のThe Paris Photo–Aperture Foundation PhotoBook Awardの審査員を務める。
SESSION PRESS
2011年 ニューヨークを拠点に始動した写真出版社。日本と中国の気鋭の作家を中心に海外へ向け写真集を制作。大学や美術館でのアーティスト・トークや講演、「ニューヨーク・アート・ブック・フェア(NY Art Book Fair)」、ロンドンやパリでの写真展にも参加し、日本や中国の作家の写真集を広く海外へ紹介することに努める。岡部桃『BIBLE』『DILDO』と横田大輔『TARATINE 垂乳根』は、オランダの写真美術館「FOAM」から「Paul Huf Award」を受け、同美術館で展覧会を開催する快挙を成し遂げる。「セッションプレス」の全ての写真集は、「テート・モダン(Tate Modern)」、「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」、「メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)」、「サンフランシスコ近代美術館(San Francisco Museum of Modern Art / SFMOMA)」、「ニューヨーク公立図書館(The New York Public Library(NYPL)」に所蔵される。
www.sessionpress.com
DASHWOOD BOOKS
マンハッタン・ノーホーに2005年より拠点を持ち、世界でクリエイティブかつカリスマ的な存在を誇る書店。長年「マグナム・フォト(Magnum Photos)」に勤めていた店主の審美眼によってセレクトされた世界中の写真集が揃っている。自費出版本から大物写真家の希少本まで、店内に並ぶ4,000冊以上の写真集は幅広く、かつ奥深く玄人をも唸らす品揃えに評価が高い。「グッチ(Gucci)」や「カルバン・クライン(Calvin Klein)」など多くの企業とコラボレーションを重ね、サイン会の企画やコンサルティング業も兼ねる。2008年以降は出版部門を始動させ、若手アーティストから大御所の写真集まで制作し、人気をさらに不動なものとしている。
www.dashwoodbooks.com