CONCORDE by Wolfgang Tillmans
現代美術界で重要な賞の一つである「ターナー賞」を2000年に受賞し、ロンドンとドイツを拠点として活動するドイツ人フォトグラファー、ヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)の作品集。超音速民間旅客機「コンコルド(Concorde)」の写真のみで構成された一冊。1997年にロンドンの「チセンヘール・ギャラリー(Chisenhale Gallery)」で開催された展覧会「I didn’t inhale」に伴い初版を刊行、そこから絶版と再版を繰り返し、2018年に6刷が発刊されたシリーズである。
1976年1月に「ブリティッシュ・エアウェイズ」と「エール・フランス」の2社で定期旅客便の運用が開始され、2003年11月まで商業運航した「コンコルド」。民間旅客機と思えないその出で立ちで、ニューヨークからロンドンまたはパリまでの航路をわずか3時間半で飛行した。作者はその特別とも言える「コンコルド」を、航空会社や空港に許可を取りプロが撮影したような航空機の写真ではなく、一般の人々の目線であえて撮影している。
「コンコルドは、60年代に開発されたテクノユートピア的な発明品の中で唯一、現在(※註)もなお稼働し、完全に機能している最後の例だろう。その未来的な形状、速度、耳をつんざくほどの轟音は、1969年に初めて飛び立った時と同じように今でも人々の想像力を掻き立てる。これは、技術と進歩が全てを解決し、空にもはや不可能を感じさせなくなった1962年に作られた環境破壊の悪夢だ....。
選ばれたごくわずかな人々にとっては、コンコルドでの飛行は華やかさを帯びているが、窮屈で少しつまらない日常である。一方で、空中を飛行する様子や着陸や離陸する姿は、不思議と自由な光景である。超現代的な時代錯誤であり、技術によって時間と距離を乗り越えようとする欲望のイメージである。」 ー ヴォルフガング・ティルマンス
※註 コメントが書かれた当時は飛行していた。
‘Concorde is perhaps the last example of a techno-utopian invention from the sixties still to be operating and fully functioning today. Its futuristic shape, speed and ear-numbing thunder grabs peopleʼs imagination today as much as it did when it first took off in 1969. Itʼs an environmental nightmare conceived in 1962 when technology and progress was the answer to everything and the sky was no longer a limit…
For the chosen few, flying Concorde is apparently a glamorous but cramped and slightly boring routine whilst to watch it in the air, landing or taking-off is a strange and free spectacle, a super modern anachronism and an image of the desire to overcome time and distance through technology.’ — Wolfgang Tillmans