10 Books Selected by Miwa Susuda (Session Press)


出版社やゲスト自らが「写真集」について語るプレゼンテーション形式のイベント「フォトブック・シンポジウム」。今年は9月1日(土)、2日(日) の2日間に渡り、NYのブックショップ「Dashwood Books」に勤める傍ら、出版社「SESSION PRESS」を主宰する須々田美和をゲストにポップアップショップとトークイベントを開催。ポップアップショップで展開した須々田美和による推薦写真集10冊をご本人のコメントとともにご紹介いたします。



1. 43–35 10TH STREET
artist|ダニエル・シェア(Daniel Shea)
spec|softcover
page|288 pages
size|240 x 270 mm
publisher|KODOJI PRESS
year|2018

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COMMENT:
多くの建築物を撮影した作品を集めた本書を通じ、アメリカ・イリノイ州出身のダニエル・シェアは、自由市場のイデオロギーのもと、急速に変わりゆく都会の様相について写真家として疑問を投げかけました。編集の仕方はありきたりの建築写真とは違い、トレーシング・ペーパーを使って後ろのページの画像を透けて見せたり、一辺倒に写真の大きさを揃えることなく編集し画一的に建築物の壮観のみを強調することを避け、コンセプチュアル・アートの展示会場を散策するような印象を与える写真集に仕上がっています。また色使いも水彩画のように薄く、原色で強く都市のあり方を提示するのではなく、幻のような儚さをたたえています。それは、急速に変化する都市の中で資本のあり方に疑問を投げかける、作家自身の複雑な思いを反映しているようです。この写真集の完成度の高さにおいて特筆すべきは、デザイナーであり、本書の版元である出版社「KODOJI PRESS」を主宰するWinfried Heiningerがシェアの作品を理解し、作家の意図を忠実に反映しながらも、よく作品が際立つように編集段階でさらに苦心を重ねた点にあると思います。作家の作品は、写真集である以上、その作品が写真集という紙の媒体で魅力を発揮できるのは、作品を十二分に理解してくれる出版社やデザイナー、印刷会社が必要であることを改めて実感できる写真集だと思います。また、作家であるシェア自身が出版社を信頼し、コラボレーションを実現する柔軟性と知性がなければ、この写真集は生まれなかったと思います。




2. MY BIRTH
artist|カルメン・ワイナン(Carmen Winant)
spec|softcover 
page|120 pages
size|220 x 305 mm
limited edition of 750 copies
publisher|SPBH EDITIONS
year|2018

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COMMENT:
アメリカ・オハイオ州で活動するフォトグラファー、カルメン・ワイナンは、アメリカの70年中期におけるフェミニストモーブメントの時代の発刊された書籍やパンフレット、雑誌に掲載された出産に関する写真(ファウンドフォト)を用い、本書を制作しました。ワイナンは、出産写真の撮り方、写真を撮られる側の妊婦の気持ちや考え、白人を被写体とした写真が多いのはなぜかなど、この時代の政治的な背景を探る手掛かりを模索しています。また「出産」というとてもプライベートな主題に対し、自身が撮影した写真を使うのではなくファウンドフォトを用いることで、主観的になりすぎることを避け、様々な視点で鑑賞できる要素を提示し、より多くの解釈を導くことを可能にし、ワイナンのアーティストとしての力量を証明しています。また、視覚を通し多くのことを問いかけることができる写真という媒体の影響力に改めて関心を払うことができ、大変興味深い一冊だと思います。




3. PHOTO-BOY 1979-1988 MY ROSE PERIOD IN AMERICA
artist|谷口 昌良(Akiyoshi Taniguchi)
spec|hardcover
page|72 pages
size|360 x 310 mm
limited edition of 300 copies
publisher|KURENBOH & YKG PUBLISHING
year|2017

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COMMENT:
本書は、現在東京・蔵前の寺院の住職でもある谷口昌良が、1979年に高校卒業と同時に渡ったアメリカで制作した27点の作品で纏められた写真集です。アメリカで70年代に生まれたニューカラー・フォトグラフィーの影響を受けながらも、作家自身の特有なユーモアと繊細な視線を通して撮られた作品は、独特な味わいに溢れています。日本人が海外で優れた作品を残すためには、作者自身の写真に対する飽くなき情熱と生きるエネルギーが必要で、本書を通じ、谷口の写真家として真摯な姿勢が感じられます。





4. CONFABULATIONS
artist|トールビョルン・ロドランド(Torbjørn Rødland)
spec|hardcover
page|112 pages
size|216 x 280 mm
publisher|MACK
year|2016

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COMMENT:
ノルウェー人フォトグラファー、トールビョルン・ロドランドの作品を通し、感情や意識がその人の過去の記憶を作るということ、また、感情というのはとても曖昧で拙く厳密には言葉では言い表すことが極めて困難であることを改めて実感します。ロドランドは、Roe Ethridgeのように全く関連性のない作品を隣り合わせて編集し、わかりやすい物語を提示することを避けます。また、コマーシャル・フォトのような明らかな強度を持つストレート・フォトで制作されていますが、作品からは性的で薄気味悪い困惑と、魅惑的なフェティッシュさを同時に感じ取れます。意味不明な構図で撮影された作品を見ていると、一言では言い難い感情の複雑さを発見し、この世の中で起こったことが白か黒かではなく、多くのことはグレーゾーンであり、意識の不確かさに戸惑いを覚えます。自分の意識のあり方に懐疑心を持つことを促す作品に対峙すると、ロドランドと同じ北欧出身のデンマーク人哲学者、セーレン・キルケゴールの思想が影響しているのではないかと考えます。キルケゴールは、「私」という主観に関して思索した実存哲学の創始者として名高い19世紀に活躍した哲学者です。独特の思想や文化が時代が変わっても受け継がれ、積極的に意図せずにも自然に作品に表れていることは興味深く思います。




5. ON A GOOD DAY
artist|アル・ヴァンデンバーグ(Al Vandenberg)
spec|hardcover
page|52 pages
size|180 x 280 mm
limited edition of 1,000 copies
publisher|STANLEY/BARKER
year|2016

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COMMENT:
アメリカ・マサチューセッツ州、ボストン出身のフォトグラファー、アル・ヴァンデンバーグは、ニューヨークでリチャード・アベドンやブルース・デビットソンと一緒に写真を学んだ経験があり、ストリートフォトを中心に、貧困や移民の生活の姿を撮った多くの秀作を初期に発表しています。1964年にロンドンに渡り、ビートルズの伝説的な『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド( Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band )』のアルバムカバーを手掛けるなど、コマーシャル写真の分野で70年代初めまで活躍しました。本作は、商業写真の撮影で自分が本当に撮りたい主題に向き合えないことに疑問を覚え、制約から完全に離れることを決意したパーソナル・プロジェクトとして完成した作品です。ヴァンデンバーグの実直で真摯な写真家としての姿勢が、ロンドンの70年代から80年代の若者の赤裸々なポートレイトから見て取れ、好感が持てます。




6. THE DAILIES
artist|トーマス・デマンド(Thomas Demand)
spec|hardcover
page|80 pages
size|180 x 210 mm
publisher|MACK
year|2015

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COMMENT:
彫刻家として出発した1964年生まれのドイツ人アーティストのトーマス・デマンドは、既にメディア上に存在するイメージを用い、実物と同じ大きさの作品を作り、見るものにリアル過ぎる物質感を与え、現実と虚構のあり方、写真と視覚の問題に疑問を投げかける作品を制作しています。本書は、モダニズムやポストモダニズムの諸問題を中心に批評活動を行う評論家、ハル・フォスターの文章が寄せられ、デマンドの作品理解のために役立っています。現代アートの愛好家にも楽しめる内容です。




7. FIRE IN CAIRO
artist|マシュー・コナーズ(Matthew Connors)
spec|hardcover
page|160 pages
size|199 x 254 mm
limited edition of 1,000 copies
publisher|SPBH EDITIONS
year|2015

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COMMENT:
ボストンのマサチューセッツ芸術大学で教鞭をとるマシュー・コナーズは、2016年にニューヨークの国際写真センター(ICP)から本書において、Infinity Awardを受賞しました。2011年1月に勃発した大規模な反政府デモであるエジプト革命で翻弄される国民の不安や社会情勢を主題とした本書は、一般的に知られている事実を忠実に撮影した報道写真の形態をとらず、ポートレイトやストリートフォトを巧みに組み合わせ、コンテンポラリーフォトの作品から得られるような一筋縄ではいかない読解の深さを示します。内容が歴史的革命をとらえたルポタージュであることを超えて、編集や本の装丁などに工夫を凝らすことにより、写真家としてメッセージを詩的に伝え、コナーズのオリジナリティーを見出すことができます。


8. THINGS HERE AND THINGS STILL TO COME
artist|ジョゼ・ペドロ・コルテス(José Pedro Cortes)
spec|hardcover
page|116 pages
size|245 x 310 mm
publisher|PIERRE VON KLEIST EDITIONS
year|2011

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COMMENT:
本書は、ポルトガル写真の新世代を担う 1人として注目され、2005年には「Photo London - Emerging Artists Presentations」に選出された、ジョゼ・ペドロ・コルテスの写真集です。アメリカで生まれ育った4人の若いユダヤ人女性兵士が、イスラエルで2年の任期を終えた後も本国には帰還せず、現地に残ることを決め、その後の赤裸々な生活を捉えた作品です。ユダヤとイスラエルの土地を巡る社会的、歴史的な複雑な問題を提起していますが、一番の見所はコルテスが元兵士であった彼女たちに注ぐ視線です。コルテスは、被写体となる女性とは偶然に現地で出会ったのですが、まるで長年の恋人へ抱く愛情が注がれ、作品からは親密さと愛惜が満ち溢れ、それはそのまま被写体となった一人一人の女性の生き方を浮き彫りにしています。まさにコルテスの作家としての力量を感じられる一冊だと思います。




9. ARCHAEOLOGY IN REVERSE
artist|スティーブン・ギル(Stephen Gill)
spec|hardcover
page|114 pages
size|216 x 216 mm
limited edition of 3,000 copies
publisher|AMC / NOBODY BOOKS
year|2007

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COMMENT:
イギリス出身のスティーブン・ギルは、動物、音楽など幼い頃からの興味の対象であった主題に加え、生まれ育った土地であるハックニー・ウィックについてこれまでに25冊以上の写真集を自身の出版社「NOBODY BOOKS」から発表しています。写真界でコンセプチュアルなアートフォトが優勢になろうとも、性や人種など社会的な問題を扱う作品が評価される傾向があろうとも、ギルは自己の姿勢を崩すことはありません。まさに、作家の内側から出てくる関心や経験を基軸にする作品こそが、見る人の心に最も強く訴えることができるというギルの信念を反映しているようです。自分自身の主観性を貫き、オリジナリティーを確立し、生涯作家であることを貫くギルの毅然とした姿勢は、個人主義が進んだイギリスの作家であることも関係しているかもしれませんが、日本人の作家も多いに参考にしたい要素があると思います。2012年のロンドン・オリンピックに向けて急速に変化していった故郷へ、ノスタルジックな想いを込めて制作した本書は、ストリートフォトや人物の写真を多く取り入れ、ドキュメンタリー的な趣が強い作品です。また、編集において本書の中の紙の大きさを変えたり、手触りの良い布性の表紙に正方形のフォーマットで写真集を仕上げ、物としてもユニークであり総合的な完成度が高い作品です。。


10. FLOWER IS…
artist|ロバート・フランク(Robert Frank)
spec|hardcover in a slipcase
page|112 pages
size|265 x 357 mm
limited edition of 500 copies
publisher|YUGENSHA
year|1987

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COMMENT:
スイス人フォトグラファー、ロバート・フランクは、1958年にフランスの出版社から「The Americans」を刊行後、多くの秀作を制作しましたが、私の一番好きな作品は本書「Flower is …」です。伝説の出版社「邑元舎」の元村氏により1987年に刊行された本書は、1974年にグアテマラ上空で航空事故によって亡くなった娘アンドレアに捧げる形でまとめられ、物悲しい想いに溢れています。制作者である故元村氏のフランクに対する敬意が胸に詰まるほど感じることができ、2人の友情を通して生まれた本書は、写真集の歴史にとって欠かせない一冊であると思います。






須々田美和(Miwa Susuda)
1995年より渡米。ニューヨーク州立大学博物館学修士課程修了。ジャパン・ソサエティー、アジア・ソサエティー、ブルックリン・ミュージアム、クリスティーズにて研修員として勤務。2006年よりDashwood Booksのマネージャー、SESSION PRESSのディレクターを務める。Visual Study Workshopや、Toront Photobook Library Artist Talkなどで日本の現代写真について講演を行うほか、国内外のさまざまな写真専門雑誌や書籍に寄稿する。2013年からMack First Book Awardの選考委員を務める。2018年より、オーストラリア、メルボルンのPhotography Studies Collegeのアドバイザーに就任。
www.dashwoodbooks.com
www.sessionpress.com


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