ドイツ人アーティスト、エスター・クラス（Esther Kläs）の作品集。「雲（CLOUDS）」は、物語的な視点で見ると、扱いにくい存在である。満ちてもいて、空っぽでもある。空っぽでありながら移ろいゆくものであり、物質と非物質、知覚できるものと見ることができないものの間に生じる緊張が存在する場である。「雲」は、作者の初作品集である本書のタイトルでもあり、15年にわたって制作された彫刻、ドローイング、パフォーマンス作品が記録され、複雑化した作者の実践を有機的に本の形で表現している。本作はそれぞれの作品の形式的なインパクトと、作品とその周辺で発生しているジェスチャーや雰囲気、動き、ムードを集積したものを概念的に他者に届ける行為として映し出している。作者の実践には窮屈な境界線もハード・エッジも存在しない。どの作品も定義というものから逃れ、パターン化された言語の力から解き放たれている。そして、メディアを問わず、作者が手がけるあらゆるものに共通した基準があるように思われる。それは、空間における一つの身体、つまり作者の身体のことであるが、それは「社会的な身体」でもあり、その身体を通じた、思考する方法、作者の考え方を反復することなのである。

キュレーターであり作家のマルク・ナバーロ（Marc Navarro）とアーティストのエスター・パルテガス（Ester Partegàs）、キュレーターのジュリー・ブコブザ（Julie Boukobza）、アーティストのクロエ・チグネル（Chloe Chignell）、アーティストであり本書の編集を手がけたフランチェスコ・ペドラグリオ（Francesco Pedraglio）らによる4つの寄稿文と、キュレーターであり作家のエレナ・タヴェッチア（Elena Tavecchia）と作者によって編まれた6つの短く緩やかなテキストを収録。本書は作者のキャンバスであり、その精巧に作り上げられた作品を追うようにパターンが移り変わっていく。そこに存在する「空」で雲のように漂い続けるのは、決断が輝かす閃光、絶え間なき活動、繰り返される反復、そして命題なのである。

カバーが折り込みポスターとしても楽しめる仕様となっている。

Clouds are, narratively speaking, some tricky things. They are both full and empty. They are vacant and shifting, a site of tension between the material and the immaterial, the perceptible and the invisible. clouds is also the title of German artist Esther Kläs’ first monograph, which spans over 15 years of sculptures, drawings, and performances. As an organic rendering of a complex practice, this book mirrors both the formal impact of each artwork and the conceptual outreach of a collection of gestures, attitudes, movements, and moods happening around the works. Because Esther’s practice has no tight borders or hard edges. Each piece escapes definition and breaks loose from the patterning power of language. Still, regardless of the medium, everything Kläs does seems to have a common denominator: it is a reiteration of a way of thinking – her way of thinking – through a body in space – her body, as well as a social body.

With four commissioned contributions (Marc Navarro with Ester Partegàs, Julie Boukobza, Chloe Chignell, and Francesco Pedraglio) and six short, loose texts edited by Elena Tavecchia and Kläs herself, the book is a canvas whose patterns shift following the artist’s elaborated work. What stays hovering in the air are sparks of decisions, constant movements, recurrent repetitions, and propositions.