OXYMORES by Philippe Weisbecker
パリ、バルセロナを拠点とするアーティスト、フィリップ・ワイズベッカー(Philippe Weisbecker)の作品集。作者による新作の16点のジプチカ(ディプティック / 蝋板本 ※註)がまとめられている。抽象的だが、時には識別ができる形も交えたドローイングと、正確でありながら、殴り描きのようにも見える絵画を対の一組として紹介している。質量や色と戯れることにより、作者が常に求め続けている純粋さへと進化してゆく。その作品は、描かれた主題の本質を探るものである。作者のなぞった線は明白に形を描き、ほとんど設計図や図式のような表現と化する。しかし、このシンプルさが心を動かす。どこか冷たくよそよそしいというより、それどころか作者の視点はむしろその描く物体たちに限りなく近づいてゆく。誰かのキッチン、名も無い通り、ローカルな金物店の棚など、最も普通であり、ごくありふれた現実を誠実に描き写すその様に、心づかいや謙虚さ、そして喜びが感じられるのである。
タイトル「OXYMORE(オキシモール)」は、互いに矛盾していると考えられる複数の表現を組み合わせた表現を指す。
※註 木や象牙で作った小さな板の表面を蝋をかぶせ、スタイラス(尖筆)という先の尖った棒状の筆記用具で蝋をひっかいて書く書写材 / 書字版(タブレット)。ローマ人が発明したものであり、ノートやメモ帳として18世紀末までヨーロッパで使われた。
Oxymores brings together 16 diptychs recently created by Philippe Weisbecker. Drawings with abstract or sometimes identifiable forms, painted with precision or thrown on the paper, presented opposite each other, in a play of masses and colors which pushes even further the purity towards which the artist constantly strives. His work is a search for the essence of the subjects he draws: his line reduces the form to its obviousness, the representation is almost schematic. Yet this simplicity vibrates and, far from being cold and distant, his gaze is, on the contrary, as close as possible to the objects represented. One perceives an attention, a humility, and a pleasure in honestly retranscribing the most ordinary reality, that of one’s kitchen, anonymous streets or the shelves of the local hardware store.