フランス人キュレーターでありジャーナリスト、出版者であるマルタン・ビザノー（Martin Bethenod）の作品集。

10,000点以上の美術作品を擁する「ピノー・コレクション（Pinault Collection）」を展示するスペース「ブルス・ドゥ・コメルス（Bourse de Commerce）」をはじめ、さまざまな文化機関や施設でディレクターを務めた経験を持つ作者が、10年間にわたって撮影してきた1,000枚にものぼる犬の写真を384ページの本にまとめた一冊。我々は大量の犬の写真を通じ、一人の人物の人生と旅路を辿り、たったひとつの情熱の不変性と携帯電話の進化を目の当たりにするのである。写真は控えめな存在感でありながら、「インスタグラム（Instagram）」に投稿された画像をスクロールして閲覧するエッセンスをとらえながら、膨大なコレクションを形成している。作者は、本書刊行時も引き続きインスタグラムのアカウントに犬の写真を日々投稿している。

「2013年より、私は不定期ながらコンスタントに犬の写真をはじめ、写真以外の表現でも犬の画像をインスタグラムで共有してきた。この画像は意図もステータスもなく、フィルターもレタッチもかけず、正方形にしたり、もしかしたら多少トリミングしたかもしれないが、最小限の調整のみに留め、一つの瞬間を捉え投稿してきた。どれも許可を必要とせず、ポーズを要求することもなく、気づかれることなく撮影することが多かった。とくに需要が高いわけでもなく、わざわざ探されるものでもない。何の期待も抱かせず、どんな形であれ再利用されることを意図してもいない。事前に視察したり、計画を立てたり、協力を仰いだりもしない。犬は通り過ぎるか、たまたまそこにいる。私は姿を見せず、近づかず、前のめりにならず、時に狙いも定めず、犬たちを撮影する。彼らは正体不明のままだ。ほとんどの犬のことを私は知らない。何年か経てランダムに戻ってきた犬もいる。人間の姿はといえば、脚や背中、リードを持つ手など、シルエットや断片としてしか現れない。背景に何があるか認識できたり、場所を特定できたりすることもあるが、そうでないこともある。このような小さなキャラクターたちは、共感を呼び、情を表現し、その力は私の心に深く響いてくる。儚く、予想もしていない、時には忘れ去られてしまうような出会いの連続が、10年間にもおよぶプライベートな日記として形づくられ、プライベートと言いながら私的なことは何一つ露わになっていない。」

タイトルは、「個人的な意味はない」「他意はない」といった意味を持つ。

“Since 2013, I have been sharing photos and other representations of dogs on Instagram at an irregular yet consistent pace. These images, devoid of intention or status, were captured and posted in the moment, without filters or retouching, with only minimal adjustment to square and potentially crop them. None of them required permission and posing was never requested; they were often captured unnoticed. They aren’t sought after, searched for—they evoke no expectations and aren’t meant to be reused in any way. They are not based on any prior observation, subterfuge, or collaboration. Dogs pass by, or simply happen to be there. I photograph them, without showing myself, without approaching, without leaning in, often without aiming. The dogs remain unidentified. Most are unknown to me. Some returned randomly over the years. Humans appear only as silhouettes or fragments—a leg, a back, a hand holding a leash. Sometimes, the backgrounds are recognizable or locatable, sometimes not. The ability of these little characters to evoke and express empathy touches me profoundly. The sequence of our fleeting, unexpected, sometimes forgotten encounters forms the private diary of a decade, in which nothing personal is ever revealed.”