CALDER IN FLIGHT by Alexander Calder
アメリカ人アーティスト、アレクサンダー・コールダー（Alexander Calder）の作品集。2025年2月から3月にかけてスイスの「グシュタード - サーネン空港」に建つギャラリー「Tarmak22」で開催された展覧会に伴い刊行された。元英国版「ヴォーグ（VOGUE）」編集長であり、クリエイティブ業界を牽引する人物の一人であるエドワード・エニンフル（Edward Enninful）による監修のもと、インスタレーションが展開されている。
空気の動きを利用して抽象的なフォルムを動かす作者のモビールは、20世紀の美術に変革をもたらした。その技術を磨いた1930年代からこの世を去る直前の1970年代まで、50年にわたって制作されてきた彫刻作品から抜粋して展覧したこの企画は、エニンフルの視点によってより豊かなものとなり、この独特なインスタレーションが重力をものともしないモビール作品と共鳴し、空気力学的な原理への考察を促している。「Black Disc with Flags」（1939年頃）や「Tic Tac Toe」（1941年）など創作の基礎となった作品や、「Gouvernails rouges」（1967年）をはじめとした円熟期の複雑なコンポジションまで鑑賞が叶い、また作品の中でも新しい「Crag with Petals and Yellow Cascade」（1974年）は、会場の窓に臨む山々を背景に、空中を泳ぐオブジェが互いに影響し合う様子をエレガントに映し出している。
本展のタイトルは、作者の飛行への憧れへ敬意を評して付けられたものであり、空港のすぐ側というユニークな環境にギャラリーを構える「Tarmak22」で展示を催すという背景は興味深いものとなっている。劇作家であるセルデン・ロッドマン（Selden Rodman）は、1950年代に作者のスタジオを訪れた際、ライト兄弟のスタジオと似ていることを言及している。また、作者の初期のモビール作品が生まれた時期は、航空産業の黄金期が萌芽し始めた頃であり、飛行家であるチャールズ・リンドバーグ（Charles Lindbergh）が1927年にニューヨークからパリへの大西洋単独無着陸飛行に初めて成功した際には、パリの「ル・ブルジェ空港」に集まった何千人もの観客の中に作者も居たと言われている。そこから20年後、フランスの代表的な飛行家でありエンジニアであったルイ・ブレリオ（Louis Blériot）の名前を冠した「Blériot」（1949年）と「New Blériot」（1950年頃）も制作している。あわせて、「ジョン・F・ケネディ国際空港」の記念碑的彫刻作品『.125』（1957年）や「ピッツバーグ国際空港」の『Pittsburgh』（1958年）から、以前「ダラス・ラブフィールド空港」に飾られていた『Red, Black and Blue』（1968年）まで、その無二のスタイルを持ったモビール作品は長年にわたって空港ターミナルを賑やかに飾ってきた。あわせて、「ブラニフ・インターナショナル航空（Braniff International Airways）」に依頼され、「ダグラスDC-8（Douglas DC-8）」と「ボーイング727（Boeing 727）」の機体の外装をデザインした『Flying Colors』（1973年）と『Flying Colors of the United States』（1975年）も注目すべき航空との接点である。
「Tarmak22」という独特の場所で開催された本展は、鮮やかな空気力学の産物が飾られた姿と、飛行機が飛び立つ滑走路とが並び、まるでそれぞれが対話するような印象的な雰囲気の中で展開された。
Published on the occasion of the exhibition Calder in Flight, February 11 - March 15, 2025, featuring text by contributor Edward Enninful.
